牛の子宮脱という疾患は、あまり多く無い疾病でありながら、出来る限り早く処置しなければ、死亡もしくは廃用になってしまう急を急ぐ疾病です。
しかし牛の子宮脱整復法について書かれている専門書などは少なく、他の人から聞いて実際にやってみるという事が多いと思います。
そこで今回は、
- 子宮脱したときにやるべき事
- 子宮脱の整復方法
についてお話ししたいと思います。
現在、私は北海道で産業動物獣医師として働いています。
詳しくは、『【プロフィール】就職で北海道に!とんでもない田舎だった…』をお読みください。
子宮脱したときにやるべき事
子宮脱は分娩後に起こります。
そのほとんどが分娩後1日以内に起きますが、稀に数日経ってから起こる事があります。
農家の人は子宮脱をしている牛を見つけるとすぐに獣医師に急患依頼をすると思います。
獣医師が到着するまでの間にするべき事
そこで獣医師が到着するまでの間にしておかなくてはならない事がいくつかあります。
獣医師はもし農家から急患依頼が来た際には立てないなら吊る準備はしといてと伝えとく必要があると思います。
①牛が自力起立できるか確認し、出来なければ吊起する準備をして、尿溝は必ず蓋をする
子宮脱は基本的に起立状態でなければ子宮を整復する事ができないので、立てなければ吊起する準備が必要です。
そして尿溝が塞がっていない場合には必ず尿溝は閉じてください。
②子宮を綺麗に洗浄し、乾燥しないように濡れたタオルなどで覆う
子宮脱している子宮はかなり汚れているので、まずは綺麗に洗い流してください。
使用用法を守ったパコマを希釈したぬるま湯が理想的ですが、多くの農家ではパコマの希釈率はバラバラだと思いますので、ぬるま湯で良いと思います。
パコマは薄すぎても効果がないですし、濃すぎても組織障害を引き起こすので、適切な希釈率で作成する必要があります。
牛の子宮脱の整復方法
実際に獣医師が到着してから子宮脱の治療方法は以下の通りになります。
※それぞれ獣医師によってやり方は多少異なります。
①起立できない経産牛などの場合で低Caを疑う場合はCa剤を投与する
起立できない経産牛で子宮脱をしている場合の多くが、低Caを併発している事があります。
そのような場合は子宮脱整復を始める前に、Ca剤を静脈内投与した方が良いと思います。
私の場合は、起立できない経産牛の場合は必ず先にCa剤の投与を行っています。
②子宮を綺麗に洗浄し、後産を可能な限り取る
到着してから子宮を綺麗によく洗浄します。
先ほども書きましたが、使用使用用法を守ったパコマを希釈したぬるま湯が理想的ですが、私の場合はぬるま湯を用意してもらうようにお願いしています。(※ほとんどの農家で希釈率がバラバラのため)
綺麗に洗浄するのと同時に後産が付着している場合には可能な限り剥離しています。
昔と異なり、今は後産停滞を起こしている牛の後産は引っ張らない方が良いというのが主流ですが、子宮脱をしている牛に関しては可能な限りとってあげた方が良いと考えています。
後産が子宮に付着していると怒責(息み)しやすいので、私の場合は可能な限り取るようにしています。
しかしかなりガッツリと付着している場合には無理に取る必要はないと思います。
この作業を行なっている間に農家に吊起してもらっています。
今はほとんどの農家が吊起する器具を持っているので問題ないかとは思いますが、万が一吊れない場合には、牛を両膝立ちさせるか、両後肢を縛り上にあげてもらうかという流れになると思います。
基本的には前低後高でなければ、子宮脱整復はかなり難易度が上がるので吊る方法を考えるのが第一です。
③気合を入れて、子宮を整復する
ようやく子宮を整復するのですが、整復する際には、子宮を高い位置に持ってくる必要があります。
子宮を高い位置に持ってくるというのは大体陰門と同じ高さまで上げられると良いと思います。
私の場合は片手で子宮角の先端の方をグーで持ち上げて、腕や胸で支えながら陰門に押し当てています。
やり方は色々あるとは思いますが、体格の小さい人は台などに乗る事で楽になると思います。
そして子宮の根本(膣側)からグーなどの面で徐々に押し込んでいきます。
子宮が破れてしまう可能性が高まるので、決して爪先などで押さないようにしましょう。
怒責が来ても、グッとこらえ、頑張って最後まで押し込みましょう。
子宮が中に入っても、子宮の定位置にしっかりと整復できているか、ちゃんと反転しているかを確認し、子宮角の先端まで腕が届かない場合にも子宮脱整復棒や野球バット、一升瓶など(先が丸くて細長いものならなんでも可)で確認しましょう。
④陰門縫合および抗生剤、オキシトシンを投与する
現在、陰門縫合は基本的に必要ないとされています。
ただ農家の人からするとやってもらった方が安心という事でお願いされる事が多いです。
ちなみに陰門縫合をしていたとしても再脱出するときは、周りの組織から千切れてしまい再脱出してしまいます。
その後、感染予防のための抗生剤の投与と子宮収縮のためのオキシトシンを投与を行います。
抗生剤に関してはペニシリンを投与する事が多いです。
その他、出血が多い場合や脱水が認められる場合にはその他適切な処置を行います。
また農家の人には後駆が高くなるように寝藁をお尻側にたくさん敷いてもらうようにお願いします。
子宮脱整復は色々なやり方がある
私のやり方は上記のようなやり方ですが、それぞれの獣医師によってやり方は異なります。
砂糖を子宮に塗れば整復が容易になったり、プラニパートを打つことで子宮が柔らかくなり整復が容易になるため、このような方法をされる先生もいます。
子宮脱は基本的に時間が経過しているものほど、子宮の状態が悪くなるので、脆くて子宮が破れてしまったり、硬くなってしまうため整復が困難になります。
また産次数が多くなればなるほど、子宮が大きくなるため整復が困難になります。
子宮脱整復には頭と力と根性が必要!
以上簡単にですが、普段臨床現場で行なっている子宮脱整復についてご紹介しました。
どのように整復すれば用意なのか考える頭、そして子宮脱整復するための力が必要になると思います。
大変な子宮脱整復に当たると腕もだるくなり、体力的にかなり消耗してしまうので、普段からの筋トレも必要だと思います。
そして何といってもちゃんと整復できるまでやり遂げなければならないので最後は根性で何とかするしかないと思います。
ここまで読んでいただきありがとうございます。