最近、新人の獣医師や授精師から直腸検査について聞かれることが多くなりました。
- 卵巣や子宮が上手く触れない
- 卵胞や黄体がよくわからない
といった内容がほとんどです。
自分も新人の頃、めちゃくちゃ時間がかかって、たまたま運よく卵巣に触れたけどなんだかよくわからない。
頑張ってようやく触れたけど、先輩と答え合わせをしたら違うかったり、エコーで確認したら違うかったり、、、
なんで上手くいかないんだろう。と日々悩んでいました。
今になって思うのは、新人の頃に下手だったのは、結局のところ直腸壁を十分に弛緩せずに触っていたからに尽きると思います。
直腸検査の上手さ=直腸壁を弛緩させる技術と判断の早さとまで思っています。
私が思う、新人がこれをわかっていれば直腸検査の悩みが減るかなということで、お伝えできればと思っています。
現在、私は産業動物獣医師として働いております。
詳しくは、『【プロフィール】なぜ産業動物獣医師である私がブログを書いているのか?』をお読みください。
直腸検査で上手く子宮や卵巣を触るためには?
直腸検査の目的は、子宮や卵巣を触診して状態を判断することです。
ちゃんと触診するには、直腸壁が十分弛緩した状態でなければ触診できません。
たとえ卵巣にさわれたとしても緊張した直腸壁では、卵胞や黄体の感触がわかりません。
そもそも直腸壁が緊張した状態だと、子宮や卵巣がどこにあるのかさえわからないかもしれません。
子宮が巻いていて、子宮を反転させなければ触診できないかもしれません。
でもそもそも直腸壁が弛緩していなければ、子宮を反転させることは難しいです。
新人の頃は、卵胞の感触、黄体の感触、胎膜スリップの感触、発情子宮の感触、など感触に関心が行きがちです。
でも十分弛緩した直腸壁と緊張した直腸壁の上から触るのでは、そもそも感触が全く違います。
参考書などに載っている感触というのは、十分に弛緩した直腸壁から触った時の感触について書かれています。
ここまででもどれだけ直腸壁が弛緩した状態で直検することが大切かわかったと思います。
直腸壁を弛緩させるために除糞やガス抜きを行う
除糞やガス抜きは直腸壁を弛緩させるための手段です。
実は、手を肛門に入れて直腸壁が弛緩していたら行わなくても良い作業なのです。
直腸検査が下手な時でも、この牛はすごく触りやすいという牛がいると思います。
そのような牛の場合は手を入れた時点で既に直腸壁が弛緩しています。
子宮や卵巣を触る時間よりも除糞やガス抜きの方が時間が長い
ここまで直腸壁が弛緩していることが重要かを話してきましたが、実際臨床現場で直腸検査する時に、肛門に手を入れている時間を1頭あたり2分と仮定すると、
そのうち、子宮を触診している時間はおよそ数十秒、卵巣は数秒程度だと思います。
残りの時間はほぼ全て直腸壁を弛緩させるために、除糞やガス抜きをしています。
除糞やガス抜きをしなければ直腸壁が緩まない牛の場合、だいたい1分はそのような動作に時間を使っていると思います。
直検の上手い授精師や獣医師は無意識のうちに直腸壁を弛緩させている
臨床現場では肛門に手を入れてから、直腸が弛緩していれば子宮や卵巣を直ちに触診をしていきますし、直腸が緊張していれば除糞やガス抜きなどを直ちに行います。
新人とベテランの圧倒的な違いは、直腸壁を緊張させるような触り方をせず、直腸壁を緩めるかどうかの判断を無意識で判断しているという点だと思います。
このくらい緩んでいたら触れるだろうとか、これだとちゃんと緩めないと触れないだろうとかそういったことを’’無意識’’に行なっているはずです。
実際どのように手を動かしているかというのは、それぞれの牛によって異なります。
- 直腸内では手を点じゃなくて線のようにして扱う
- ガス抜きを行う際には拳を立てて手前に引っ張ってくる
- 直腸壁を手前に小刻みに動かして排便やガス抜きを促す など
このような技術を組み合わせて、その場その場で対応しています。
触診の順序は大体決まっている人が多いと思いますし、『獣医師・授精師が行う臨床現場における牛の直腸検査の実際』にも書いているように自分も大体決まっています。
ところが直腸壁の弛緩のさせ方については、これだと絶対これをやるというのは決まっていないです。
それは何千、何万頭と直検する中でこういう感じだったら、こう動かそうともう手が覚えているので、ほとんど無意識で判断してやっています。
なので新人で直腸検査が苦手だと感じる人は、触診の感覚に重点を置くのではなく、まずは直腸壁を弛緩させることに注力した方が、上手く、そして素早く直腸検査を行えるようになるかもしれません。
もし参考になれば嬉しいです。
ここまでお読みいただきありがとうございました。
『【繁殖検診/妊娠鑑定】コツを掴むまで難しい!新人獣医師が牛の直腸検査ができるようになるまで』でも直腸検査について、書いています。
『【新人獣医師・獣医学生必見】産業動物臨床獣医師におすすめの専門書/参考書【乳牛の勉強】』では、おすすめの参考書を紹介しています。