昨今、産業動物臨床獣医師が不足していると言われています。
獣医大学の講義やレポートなどでもよくこの問題は取り上げられる事が多く、私も学生時代にどのようにすればこの問題を解決できるのか求められる事もありました。
また岡山理科大学獣医学部が新設された経緯としても、公務員獣医師を含めた産業動物に従事する獣医師の不足も設立された理由の一つとされています。
そんな産業動物獣医師の不足について、現役の産業動物臨床獣医師として、この問題はとても解決するとは思えないと感じており、今後ますます産業動物に従事する人は減少するのではないかとさえ感じています。
そこで今回は、
- 産業動物獣医師の不足の実情
- 産業動物獣医師の未来
について、お話ししたいと思います。
現在、私は北海道で産業動物獣医師として働いています。
詳しくは、『【プロフィール】就職で北海道に!とんでもない田舎だった…』をお読みください。
産業動物獣医師は不足しているけど、根本的な対策は何一つなされていない
現役産業動物臨床獣医師として、実際に産業動物獣医師の不足は日頃からひしひしと感じています。
私が普段診療している地区は、酪農専業地域と呼ばれるような地域ですが、他の地域と比べても診察件数は多く、獣医師の人数も十分に足りているとは言えない状況であり、長期休暇はあまり気軽に取れないような状況です。
そしてこのような慢性的な獣医師の不足は、職場環境が改善されていないのが原因だと感じています。
女性獣医師が増えて、男性獣医師の負担が増えているってほんと?
近年、獣医学科では男性よりも女性の比率の方が高くなっており、以前は男性の職場であった産業動物獣医師の世界も、多くの女性獣医師が活躍されています。
一方で、女性獣医師が増え、結婚出産などで仕事ができない期間が生まれ、男性獣医師の負担が増えたというを幾度か耳にしたことがあります。
もちろん産業動物獣医師の世界でも、出産・子育てなどの休暇を設けているところも多いですが、あまり積極的に活用されている印象はありません。
休暇を取るよりも、育児休暇で仕事を休むことで、同じ診療班の人に負担をかけてしまうのではないかと考えてしまうのか、結婚を機に家庭に入り、退職されてしまう方が非常に多いです。
そして、依然としてそんな女性獣医師に対してよく思っていらっしゃらない男性の獣医師も一定数いると言うのは事実だと思います。
しかし結局のところ、この問題は、女性獣医師が必要な休暇を気軽に取ることができるほど、産業動物獣医師を十分に確保できていない事が原因ではあるように思います。
診療所の運営はほとんどが赤字運営されている
産業動物獣医師の確保が課題だとされている中で、現在ほとんどの診療所の運営は赤字運営がされています。
このような赤字運営を改善するために、診療費の値上げなども行われてきましたが、それだけでは赤字運営は改善されず、解決には至っていません。
もちろん診療所も赤字のままでは診療所を運営し続けることはできないため、診療所の運営方針も見直されるようになりました。
診療所の統合などにより、経営の合理化がどんどん進んでいる
そうした中、診療所の統合などが積極的に行われるようになり、経営の合理化が次々と行われてきました。
診療所の統合は、農家に寄り添う必要のある現場の獣医師にとっても、また農家にとっても、何一つメリットはありません
農家が獣医師を呼んだとしても、すぐに行くことが難しくなっています。
獣医師の給与・待遇は悪化の一途を辿っている
そうして診療所の統合が積極的に行われ、診療所の閉鎖が次々と行われた結果、診療区域の拡大に伴い、現場の獣医師の負担はさらに大きくなっています。
また赤字の補填のため、獣医師の増員はどころか、むしろ減員されるところの方が多いほどです。
このように統合・合併を繰り返す中で、給与は変わらない、もしくは減少する中で、負担だけが増えていき、現場の産業動物臨床獣医師にとっては好ましくない状況が続いています。
このような状態では、大学でどれほど魅力的な講義が行われようと、到底産業動物獣医師になりたいと獣医学生を魅了することは極めて難しいと感じています。
産業動物獣医師の世界に進む学生は少なくなって当然だ
産業動物獣医師の不足が問題視されている状況下であっても、獣医師の待遇は軽視されており、このままではますます産業動物獣医師の不足はますます加速するのではないかと危惧しています。
今後は産業動物も開業がどんどん増えていく
今後、国が主体となり、家畜診療所の統合を中心とした経営合理化が推進されていくことは間違いないと思います。
これ以上、獣医師の待遇が軽視されれば、産業動物獣医師も開業するしかないと言う状況になるのも近いのではないかと思います。
特に飼養頭数の多い地域では、開業する獣医師はますます増えていくのではないかと考えられます。
経営合理化のために、より良い獣医療を提供する事が難しくなることは誠に遺憾で残念にです。
このように獣医師に負担をし入り、無理矢理に経営合理化を進める一方で、獣医大学を新設したり、大学教育で産業動物に力を入れたとしても、産業動物獣医師の安定的な供給には繋がらないのではないかと疑問に思います。
産業動物獣医師を目指す人にとっては少し残念な話ですが、これが実情です。
それでも大動物の診療は大変面白いので、ぜひ産業動物臨床に興味のある学生が一人でも増えてくれると嬉しいです。
ここまでお読みいただきありがとうございました。