産業動物獣医師を目指す人に向けて

お産が進まない?臨床現場での牛の子宮捻転の診断方法と整復方法について

朝から産みそうで産まないんだよね

夜中の急患依頼の電話でまずこれを聞くと真っ先に考えるのが、子宮捻転だと思います。

往診先へ車を走らせる中、頭の中であれやこれや考えながら、往診に向かいます。

獣医師1年目の頃、夜間の急患でドキッとするのが難産、子宮脱の他にこの子宮捻転でした。

決して稀な症例では無いけれど、実際に自分一人でやってみるまでよくわかりませんでした。

今回はそんな子宮捻転について、

  • 子宮捻転の診断方法・整復方法・娩出までの流れ

をご紹介したいと思います。

現在、私は北海道で産業動物獣医師として働いています。

詳しくは、『【プロフィール】就職で北海道に!とんでもない田舎だった…』をお読みください。

【プロフィール】なぜ産業動物獣医師である私がブログを書いているのか?こんにちは! 現在、私は北海道で産業動物獣医師として働いています。 獣医師として働くかたわら、『獣医ってこんな感じだよ!』ということ...

子宮捻転の診断方法は捻れを確認すること

まず子宮捻転は、子宮が捻れていることを確認する必要があります。

それには触診する場所がいくつかあります。

①陰門から手を入れて捻れている子宮壁のひだを確認する

陰門から手を入れ、正常な牛であれば、膣壁から子宮に向かって、真っ直ぐ手が入ります。

一方、子宮捻転を起こしている牛は真っ直ぐに手が入らないことがあり、子宮壁を触ると捻れている方向にひだや筋が確認されます。

しかし子宮捻転を起こしているすべての牛で確認されるわけではなく、捻転が軽度であったり、分娩前の捻転であればわからないことも多々あります。

②直検で子宮広間膜の捻れを触知する

牛の子宮は子宮広間膜と呼ばれる左と右の2枚の膜で腹腔内に吊り下げられています。

子宮捻転が起こると、子宮広間膜も捻れている方向に引っ張られます。

このため、直腸壁越しに子宮を触ると、捻れている方向に向けて広間膜が引っ張られているのが触知されます。

子宮広間膜の捻れは子宮捻転の診断において最も分かりやすく、一部を除いてほぼ全ての症例で起こっているので診断にとても有用です。

③直検で子宮の捻れている部位を直接触知する

これまでの2つでほとんど診断する事ができますが、稀に子宮の奥で捻れており、胎児が子宮内で巾着状に捻転してしまっている事があります。

この症例ではほとんどの場合胎児を触知できず、また広間膜も正常ではなくなんとなく奥に引っ張られているという状態になります。

このような捻転の際には直接子宮が捻れていることを直検で確認する必要があります。

ちなみにこのような捻転は整復不可で帝王切開になる事が多いです。

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子宮捻転の整復方法は?

子宮捻転の整復方法については、胎児回転法と母牛回転法があります。

胎児を回すか母牛を回すかという事です。

どちらの方法にもいくつか方法があり、地域や獣医師によって選択する方法は違うと思います。

①胎児回転法

胎児回転法が可能なのは子宮頸管が拡張していて胎児を触知する事ができる場合のみです。

胎児回転法には用手法と捻転整復棒を用いる方法があります。

(1)用手法

胎児の肩やお尻あたりが触れる場合は捻転方向と反対側に向けてグルリと押し込む事で整復できる事があります。

また脚だけ触れる時でも前後に反動を付けながら、捻転方向と反対方向かつ頭側に押し込むようにすると整復できる事があります。

(2)子宮捻転整復棒を用いた方法

胎児の体が十分に触れない時でも脚が触知できる場合に、子宮捻転整復棒を脚に掛けて、捻転方向と反対方向に回す事で整復可能となる事があります。

用手法と異なる点は、捻転整復棒を脚にかける人と回す人が必要なので、2人は必要という点と胎児にあまり触れなくとも捻転整復が可能という点です。

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②母牛回転法

胎児回転法による整復が不可能な場合は母牛回転法による整復が行われます。

母牛回転法については、後肢吊り上げ法と母牛回転法があります。

(1)後肢吊り上げ法

後肢吊り上げ法は、母牛を捻転方向を”にし倒牛し、後肢を縛り、トラクターに繋げて、後肢を母牛の肩あたりまで持ち上げゆっくりと戻すことにより捻転が整復されます。

(2)母牛回転法

母牛回転法は、母牛を捻転方向を”にし倒牛し、前肢と後肢をそれぞれ縛り、両後肢を豚の丸焼きのようにロープで繋ぎ、トラクターなどで母牛を転がす方法です。

踏板があれば母牛の腰角の前に掛けて、踏みつける事で、胎児が固定され、整復率が上がります。

後肢吊り上げ法より母牛回転法の方が整復率は高い一方で、人手が必要ということとある程度の場所が必要になります。

子宮捻転整復の整復率について

子宮捻転の整復率は、用手法<捻転整復棒<後肢吊り上げ法<母牛回転法の順に高くなります。

母牛回転法で整復できなければ、帝王切開で娩出となります。

基本的に胎児が生存しており、破水していない方が整復率は高いです。

発見が遅れ、捻転が酷ければ酷いほど整復率も予後も悪いです。

また子宮捻転において、左捻転:右捻転は8〜9:1〜2の割合とされていますが、右捻転は臓器の位置関係からかなりにくいが治りにくいです。

個人的には、用手法や捻転整復棒を試み、捻転整復できなければ、母牛回転法を行う事が多いです。

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子宮捻転整復後に胎児が娩出される時間は?

分娩中の子宮捻転整復後に胎児が娩出されるまでの時間は、整復後の頸管の拡張の程度によって変わります。

1〜2時間で産む牛が多く、6時間以内でほとんどの牛が娩出します。

一方で頸管拡張が不十分な牛は娩出までに時間を要し、12時間以降に娩出する牛もいますが、胎児の生存率は極めて低いです。

頸管拡張には物理的な刺激が非常に大切で、母牛のいきみが弱かったり、破水していると拡張するまでに時間がかかります。

このような場合にはCa剤の静脈内投与やエストリオールの注射、及び頸管のマッサージをしてあげることで拡張されやすいです。

拡張不全で経過観察しても進展が見られない場合には帝王切開という流れになります。

以上、簡単にですが、臨床現場での子宮捻転整復と流れをご紹介しました。

参考になれば幸いです。

ここまでお読みいただき、ありがとうございました。

 

 

 

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とんち
当ブログを運営・管理している”とんち”です。 現在、北海道で産業動物臨床獣医師として働きながら、ブログを書いています。 詳しくは、『【プロフィール】なぜ産業動物獣医師である私がブログを書いているのか?』をご覧ください。
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